ケースとしては稀ですが、特殊な事情から住民票を置く場所を探している人は一定数います。
バーチャルオフィスはビジネス用の住所を貸し出すサービスですが、その住所に住民票を登録しても良いのでしょうか?
結論を先に言ってしまうと、バーチャルオフィスの住所は住民票には使えません。
私書箱のように郵便物や荷物を受け取ってもらい、転送してもらうことはできます。サインが必要な荷物もOKですし、簡易書留もOKなので銀行口座の開設通知なども受け取れます。
しかし住民票はダメ。法的にNGだからです。その理由を詳しく解説します。
バーチャルオフィスが住民票を置けない法的根拠
個人の「住所(つまり住民票を置く住所)」は、民法上、次のように記されています。
(住所)第22条 各人の生活の本拠をその者の住所とする。
民法22条より引用
(居所)第23条 住所が知れない場合には、居所を住所とみなす。
2 日本に住所を有しない者は、その者が日本人又は外国人のいずれであるかを問わず、日本における居所をその者の住所とみなす。ただし、準拠法を定める法律に従いその者の住所地法によるべき場合は、この限りでない。民法23条より引用
「住所=生活の本拠」ということになります。
そしてその「生活の本拠」には、次のような解釈がなされています。
民法第22条でいうところに「生活の本拠」とは、私的生活の中心地を意味するものである。
総務省より引用
その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心。
最高裁判所
「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになります。
国税庁より引用
つまり住民票が置けるのは、「生活している実態がある住所」ということになりますね。
バーチャルオフィスの住所は、あくまでビジネス用途に限定されています。生活しているとは言えず、よって住民票は置けません。全てのバーチャルオフィスで共通の見解です。
住民票を置くだけのサービスも法律的にはグレー
世の中には「住民票を置くだけのサービス」が存在します。主にアドレスホッパー(定住先を持たず、生活拠点を転々とする人)をターゲットにしているようです。
狭いマンションの1室が用意されていて、一応生活できる設備は整っています。その1室に利用者全員が住んでいる体になっているようです。
かなりムリがありますが、何かきっかけがない限りバレることは少なく、「ほとんど外出しているけど、ここに住んでいるんだ!」と言い張れば通ってしまうかもしれません。
ただし慣習上、必ずしも法律通りの運用にはなっていない
ただしメインで生活している住所以外に住民票が置かれているケースは、ままあります。
例えば、地方から東京の大学に通うために上京した学生は、普通は住民票は実家に置いたままです。引っ越してるのにずっと実家に住民票がある人は、そこそこいる気がしますね。
普段住んでいない住所に住民票を置くという点では、バーチャルオフィスに住民票を置くのも実質変わらないような気もします。
とはいえ違法は違法ですし、バーチャルオフィス側が規約でNGとしているので、やはりバーチャルオフィスに住民票は置けません。
ちなみにリアルオフィスなら住民票を置ける
なおリアルオフィスなら、自宅が別にあっても住民票を置くことは可能です。
自宅より職場で過ごしている時間の方が長いケースは、さほど珍しくありません。会社にはトイレもありますし、ちょっとしたキッチンなんかもあったりします。
ほんとに会社で寝泊まりしている人もいますし、その気になれば暮らせてしまいます。
住民票をバーチャルオフィスに置きたい理由とは?
ちなみにどんな理由があってバーチャルオフィスに住民票を置きたいのか?主な理由をピックアップしてみました。
- 自治体のサービスや特典を受けたい
- 特定のエリアに住民税を納税したい
- アドレスホッパーで定住先がない
- 海外移住する
- 越境通学させたい
それぞれの理由を覗いてみましょう。
理由①:自治体のサービスや特典を受けたい
自治体独自のサービスを受けたいがために、その地域に住民票を移すという理由が考えられます。例えば補助金や給付金などは、その地域に住民票を持っている人が対象になります。
より良い条件を提供している自治体を選り好みするために、住民票を移したいと考える人もいるかもしれません。
理由②:特定のエリアに住民税を納税したい
国税である「所得税」は国に納める税金なので、全国どこに住民票があっても関係ありません。一方で地方税である「住民税」は、住民票がある都道府県・市町村に税を納めることになります。
特定のエリアに税金を納めたい「地方愛」のある人は、都心で生活しながらも、地方に住民票を置きたいと考えるでしょう。
理由③:アドレスホッパーで定住先がない
「アドレスホッパー」とは、定住先を持たず、スーツケースに収まる荷物だけを持って世界や日本の各地を転々としている人達のことです。
アドレスホッパーは定住先と呼べる場所がないので、住民票を置く場所に困ってしまうわけです。
しょうがなく実家に住民票を置いている人が多いと思いますが、実家が使えないとどうにかこうにか住民票を置ける場所を見つけなければなりません。
理由④:海外移住する
海外移住する人は、余計な税金を取られないように住民票を抜くのが通常です。しかし何らかの理由で、住民票を残したい人もいます。
普通は実家などに住民票を移しますが、実家が使えない場合はどこか別の住所を見繕わなければなりません。
理由⑤:越境通学させたい
公立学校は、原則その地域に住民票がある子供が入学できます。しかしより良い環境を求めて、別の都道府県や別の市区町村の学校に子供を通わせたい親も一定数います。
親戚や知人を頼って、実際には住んでいない住所に住民票を置かせてもらうグレーな方法がよく採られます。
バーチャルオフィスの本来の用途は?
ここで本来のバーチャルオフィスの用途を整理しておきましょう。
- 名刺やホームページに記載する住所として使う
- 法人登記の住所として使う
- 郵便物や荷物の転送してもらう
- ネットショップの特定商取引法の対応に使う
こういった用途であれば、問題なくバーチャルオフィスを利用できます。
用途①:名刺やホームページに記載する住所として使う
名刺やホームページで住所を公開していないと、「この会社(この人)、なんか怪しい...」と信用してもらえません。また契約書や請求書といった物理的なやり取りが発生すると、住所なしというわけにはいきません。
しかし自宅で仕事をしている人は、プライベートの住所を公開するのは抵抗感が強いと思います。
そんなときはバーチャルオフィスの住所を公開すればOKです。ビジネス街の一等地の住所が使えるサービスも多く、見栄えも良くなります。
用途②:法人登記の住所として使う
バーチャルオフィスの住所は、法人登記先(=登記簿に記載される本店所在地)として登録することも可能です。
「実際にはオフィスとして使っていない住所を登記先として使って良いのか?」と疑問に思う人もいると思います。しかし法人登記の本店所在地には制限がありません。法律的に全く問題ありません。
用途③:郵便物や荷物の転送してもらう
ビジネスをすれば取引先や税務署などから様々な郵便物が届きます。物理的な商品がある場合は、荷物のやり取りも発生します。
不特定多数の人に自宅の住所が知られるのがイヤな人は、バーチャルオフィスの住所に送って貰えばOKです。
私書箱のようなイメージで、バーチャルオフィスが郵便物や荷物を受け取ってくれて、自宅まで転送してくれます。
用途④:ネットショップの特定商取引法の対応に使う
ネットショップは、特定商取引法(略して特商法と呼ばれる)の対応により、サイト内に住所を掲載しなければなりません。
こちらの住所にもバーチャルオフィスの住所を利用できます。
昨今は無形商材やハンドメイド作品の販売など、自宅で完結する小規模ビジネスが増えてきています。こういった用途もバーチャルオフィスの守備範囲となっています。
まとめ
というわけで、バーチャルオフィスに住民票は置けません。
住民票を置く住所は、メインの生活拠点である必要があります。バーチャルオフィスは、あくまでビジネス用の住所を貸し出すだけなので、住民票には使えないというわけです。
なお何らかの理由から、実際には住んでいない住所に住民票を移したいケースはあります。しかしほとんどのやり方は、法律的には黒に近いグレーです。とてもオススメできるものではありません。
ただ海外移住やアドレスホッパーは、別に悪いことはしていません。従来の生活観に根差した日本の法律と、新しいライフスタイルがマッチしていないだけ。この辺りは将来見直されると良いですね。
この記事を書いた人
管理人
バーチャルオフィスで起業した個人事業主 兼 マイクロ法人の社長。バーチャルオフィスの住所で、法人登記&法人銀行口座の開設も経験済み。
事業はメディア運営&ハンドメイド作品の販売。インターネット上で完結する事業なので、作業はもっぱら自宅。
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